第 1
量子ビット
状態ベクトル・確率振幅・計算基底測定
単一量子ビットの純粋状態モデルを組み立て、複素数の確率振幅が測定確率になる仕組みを学びます。
学習目標
- 古典ビットの値と、量子ビットの状態ベクトルを区別する。
- 計算基底とディラック記法を、隠れた古典値としてではなく座標として使う。
- 複素数の確率振幅から測定確率を計算する。
- 「0 と 1 の両方」という説明が不十分な理由を説明する。
控えめな場面
アリスは静かな観測室に入り、0 と 1 の二つの印だけを持つ真鍮の計器を見つけます。古典的な計器なら、読まれる前からどちらか一方を指している、と考えれば十分です。しかしこの計器を説明するには、それだけでは足りません。
案内役は慎重に言います。これは気まぐれな針でも、魔法の箱でも、二つの答えを同時にしまっている装置でもありません。必要なのは、状態ベクトルとして記述することです。
古典ビット
- モデル上の値は 0 または 1。
- 理想的には、読み取りでその値を知る。
- 確率は値についての無知を表す。
純粋な量子ビット
- 規格化された状態ベクトルで表す。
- 測定は、選んだ基底で一つの古典結果を返す。
- 確率振幅と相対位相が後の操作に影響する。
量子ビットの測定結果は古典的ですが、測定前の状態そのものは古典的な結果ではありません。
古典ビットと量子ビット
古典ビットは、値が 0 か 1 のどちらかである変数としてモデル化できます。どちらか分からない場合には、古典確率を割り当てます。この確率は、値についての情報不足を表します。
一方、単一の純粋な量子ビット状態は、二次元の複素ベクトル空間のベクトルとして表されます。通常は二つの基準ベクトルを選び、それを計算基底(computational basis)と呼びます。
測定結果には 0 と 1 というラベルが付きますが、測定前の状態が「どちらか分からない古典ビット」だという意味ではありません。
理解度チェック
二次元の複素状態空間
ディラック記法では、状態ベクトルをケットで書きます。計算基底状態は、列ベクトルとして次のように表せます。
任意の純粋な単一量子ビット状態は、次の線形結合で書けます。
( \alpha ) と ( \beta ) は複素数の確率振幅です。確率そのものではありません。複素数は大きさと位相を持ち、量子力学ではその両方が意味を持ちます。確率は、選んだ測定基底に対してボルン則を適用したときに現れます。
規格化
完全な基底に対する確率の合計は 1 でなければなりません。
State form
|ψ⟩ = α|0⟩ + β|1⟩
|0⟩ と |1⟩ は基底ベクトル、α と β はその基底で見た状態の複素座標です。
計算基底での測定
状態
を計算基底で測定すると、ボルン則により
となります。測定結果は古典的な値です。理想的な射影測定では、その試行における測定後状態は、得られた結果に対応する基底状態になります。
振幅が sqrt(0.8) と i sqrt(0.2) の状態では、計算基底測定の確率は 80% と 20% です。位相 i はこの一回の測定確率には見えませんが、後の干渉では意味を持ちます。
計算例
例 1: 基底状態。 ( |\psi\rangle = |0\rangle ) なら、( \alpha=1 )、( \beta=0 ) です。
これは量子状態ですが、この測定に関しては決定的です。
例 2: 等しい重ね合わせ。
では、どちらの振幅も絶対値の二乗が (1/2) なので、計算基底測定では 0 と 1 が同じ確率で現れます。ただし、これは単なるコイントスではありません。相対位相は後の操作で観測可能な差になります。
例 3: 複素振幅を含む状態。
では、(0.8+0.2=1) なので規格化されています。計算基底測定の確率は (P(0)=0.8)、(P(1)=0.2) です。係数 (i) の絶対値は 1 なので (P(1)) は変わりませんが、状態の一部として残ります。
よくある誤解
理解度チェック
理解度チェック
まとめ
まとめ
- 量子ビットは、二次元複素状態空間の規格化されたベクトルで表されます。
- 計算基底 ( |0\rangle, |1\rangle ) は、状態と測定を記述するための座標系です。
- 純粋状態は ( |\psi\rangle = \alpha|0\rangle + \beta|1\rangle )、規格化条件は ( |\alpha|^2 + |\beta|^2 = 1 ) です。
- 計算基底測定では (P(0)=|\alpha|^2)、(P(1)=|\beta|^2) です。
- 位相は一つの測定分布には見えなくても、後の操作で重要になります。
参考文献と発展学習
- Michael A. Nielsen and Isaac L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information.
- John Preskill, Lecture Notes for Physics 229: Quantum Information and Computation.
- Qiskit Textbook の単一量子ビット状態と測定に関する章。